伊豆半島の内陸北部に位置する伊豆の国市。伊豆の国市といえば、伊豆長岡温泉や、世界文化遺産・韮山反射炉が有名ですが、この地域は鎌倉時代に北条氏が栄えた土地でもあり、史跡もたくさん残されています。
2022年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の主人公は、鎌倉幕府二代執権・北条義時。そこで今回は、今熱い注目を集めている北条氏のゆかりのスポットが点在する伊豆の国市守山地区をサイクリングで巡ってきました。
伊豆長岡駅前観光案内所で自転車をレンタル
今回のサイクリングは伊豆長岡駅からスタートします。
伊豆箱根鉄道・伊豆長岡駅の駅舎を出るとすぐ左手にある伊豆長岡駅前観光案内所で電動自転車をお借りしました。
観光案内所には観光パンフレットはもちろん周辺のイラストマップもあり、北条氏ゆかりのスポットを巡りたい、と伝えるとスタッフの方が丁寧に目印や、見どころを教えてくれました。レンタサイクルについての注意事項も聞いたあと、案内所前で電動自転車の操作のコツを教えていただき、いざ出発です!恐る恐るのスタートでしたが、電気のアシストのお陰で軽快に走ることができ一安心!願成就院に向かいます。
運慶の仏像群を収蔵する願成就院
10分ほどで、最初の目的地、願成就院に到着。
願成就院は、長い歴史があり、大変貴重な数々の仏像等も収蔵する真言宗の寺院。北条氏とのゆかりも大変深く、歴史好きの方にイチオシのスポットです。
願成就院と北条氏のゆかり
創建は1189(文治5)年、尼将軍・北条政子の父であり鎌倉幕府初代執権となった北条時政により、娘婿である源頼朝の奥州平泉討伐の際、その戦勝祈願のために建立されたそうです。
そして、初代執権北条時政が建立したあと、『鎌倉殿の13人』の主役・2代執権北条義時、3代執権北条泰時の北条氏三代にわたり堂塔伽藍が営作され、北条氏の氏寺として伊豆屈指の大寺院として英華を誇っていたことが歴史書「吾妻鏡」に伝えられています。
運慶作・5体の国宝の仏像
その後の北条早雲による動乱や、豊臣秀吉の小田原征伐などによる戦火のため、残念ながら堂塔は残っていませんが、御本尊をはじめとする貴重な仏像の一部は、僧侶らの手によって運び出され焼失を免れることができたそうです。
戦火を免れた仏像の中には、あの東大寺南大門の金剛力士像などでも有名な運慶が造った、御本尊 阿弥陀如来座像、不動明王三尊像、毘沙門天立像の5体があり、大御堂に安置されています。運慶三十代の作品は希少で、すべてが国宝に指定されているほど。
これらは、それまで貴族の依頼により仏像を造ってきた運慶が、初めて東国の武士の依頼により制作したもので、武士に受け入れられる体躯の逞しさ、力強さ、表情の厳しさを特徴とする鎌倉様式(運慶様式)を完成させた仏像群と言われています。
仏像には、清々しく凛とした躍動感やあふれるような精気が感じられ、平家物語の中で活躍する源義経や那須与一、そんな東国武士たちの勇猛果敢な姿をも今に伝えてくれているような気がします。
宝物館
大御堂を見学したあと、宝物館へ向かいます。宝物館に入ると正面には、北条政子地蔵菩薩像と北條時政公肖像が座していました。どちらも歴史的に大変価値のある肖像で、写真が日本史の教科書にも掲載されているので見覚えがある方も多いのではないでしょうか。
北条政子地蔵菩薩像は、そのきびしい表情から、承久の乱で御家人を鼓舞し、鎌倉幕府の勝利に力を尽くした「尼将軍」北条政子の姿を偲ぶことができます。また、北条時政公肖像は現存する時政の唯一の肖像なんだそうです。
宝物館でご注目いただきたいのが、毘沙門天像、不動三尊像の胎内より発見されたという胎内銘札です。胎内銘札とは仏像の胎内の空洞に収蔵されている仏像制作の主旨などが記された木の札のことで、仏像の魂に相当するものです。
願成就院に現存する体内銘札4枚は、不動明王三尊立像と毘沙門天立像から取り出されたもので、仏像群と共に国宝附に指定されています。表面に梵字で宝篋印陀羅尼というお経が書かれており、裏面には、制作者や制作された時期、制作の主旨が記されています。確かに「運慶」という文字が記されていますので、ぜひ確認してみてください。
願成就院まとめ
願成就院には、このほか創建者である北条時政のお墓があり、また、発掘調査により山を背景として大きな池の広がる大規模な浄土庭園をもつ、鎌倉時代の願成就院の伽藍の様子が明らかになり、守山東斜面と境内及び東側隣接地が「史跡願成就院跡」として国指定史跡に指定されています。
歴史好きな方には必見のスポット願成就院。悠久の時を経て、なお私たちを魅了し続ける運慶作の阿弥陀如来坐像を静かに眺めていると、800年以上前に確かに北条時政らが祈りをささげていた同じ場所に、今自分が立っていることに感慨を覚えることでしょう。
願成就院
■住所 静岡県伊豆の国市寺家83-1
■TEL 055-949-7676
■拝観料 大人700円、中高生400円、小学生200円
■休館日 火曜日・水曜日(ただし正月三が日、祝日の場合は会館)、節分の日、8月15日、7月30日~8月3日、12月24~31日
守山八幡宮
次の訪問スポット、守山八幡宮は願成就院の後方、すぐ近く守山にあるため歩いて向かいました。
守山八幡宮は守山の中腹にある源氏の氏神八幡神を祀る神社です。鳥居の横には「源頼朝挙兵之碑」が建てられており、平家追討のために頼朝が挙兵した地であると記されています。
鳥居をくぐり、石階段を登っていくと正面に舞殿がありました。舞殿とは神社の境内に造られる舞楽を行うための建物。辺りを緑の木々に囲まれたこの舞殿は、神聖な空気が漂っており神様へ舞を奉納するのにふさわしい舞台であるように感じました。
そして、舞殿の裏側へ向かうと長くて急な石階段が突然目の前に表れました。その長い石段を、途中で何度か休憩しながら登ります。
階段を登りきると小さな木造の本殿が森林の中にひっそりと佇んでいました。約830年前、歴史に残る源平の戦いのために、源頼朝が挙兵をしたこの場所は、今は静かに眠っているようでした。
夏草や兵どもが夢の跡・・・
芭蕉の句が頭をよぎります。
力強く祝詞が唱えられた遠い日に思いを馳せ、お詣をして社殿を後にしました。
守山八幡宮
■住所 伊豆の国市寺家1204-1
※ 自由に見学できます。
北条政子産湯之井戸
源頼朝の正室、北条政子が誕生した際に水をとったと伝えられている井戸。
北条政子は、伊豆の豪族、北条時政の長女として1157年にこの地で誕生しました。のちに戦に負けて伊豆に流されてきた源頼朝と恋仲になり、頼朝の監視役であった父北条時政の反対を押し切って頼朝の妻となったそうです。その後、4人の子供を出産した北条政子の伝承から、この井戸の水は安産に霊験があると言われていたそうです。
北条政子産湯之井戸
■住所 静岡県伊豆の国市寺家23
※ 自由に見学できます。
眞珠院
北条政子産湯之井戸を後にし、眞珠院を目指し伊豆長岡駅方面へ戻ります。
眞珠院は室町時代中期の1470年に開山した曹洞宗の寺院です。修行道場として多くの名僧を輩出してきたそうで、山門には修行道場を意味する「林」を用いた「祇樹林」の文字が掲げられています。
今回、眞珠院を訪ねたのは、ここが源頼朝の恋人であった八重姫ゆかりの地であるから。
ここでこのお寺にまつわる八重姫の悲恋を紹介します。
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八重姫は、伊東の豪族であった武将・伊東祐親の三女で伊豆一の美人であったとも伝えられています。平治の乱で捕らえられ、伊豆に流された頼朝は、伊豆蛭ケ小島で暮らすうち 監視役であった伊東祐親の娘、八重姫と恋仲に。二人の間には、男の子も生まれ千鶴丸と名付けられました。
ところが、大番役を終え、京の六波羅から3年ぶりに伊東に戻ってきた伊東祐親は、頼朝と八重姫の関係を知って激怒。当時、頼朝は配流となった源氏の武士にすぎず、平氏との関係悪化を恐れた祐親は、三歳の千鶴丸を殺害。頼朝を韮山の北条時政のもとに追いやり、八重姫を幽閉してしまいます。
悲しみに暮れる八重姫は、6人の侍女とともに険しい峠を越えて頼朝がいる韮山へ向かいます。ところが北条時政の館で聞かされたのは、頼朝が北条時政の娘、政子と結婚したという残酷な事実でした。悲嘆に暮れた八重姫は、「今は世に生きる何の望みもなし。せめて我が身を犠牲にして、将来共末永く不幸な女人たちの守護神となりましょう。」と言い残し真珠ヶ淵(眞珠院の正面にある古川)に身を投げてしまったそうです。
※源頼朝との仲を引き裂かれた八重姫のその後にはこの他にも諸説あります。
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眞珠院の山門をくぐると右手にこの八重姫を供養する八重姫御堂があります。
御堂の正面右側の壁にはたくさんの小さな梯子が奉納されているのですが、これは、八重姫が身投げをした時に梯子があったら姫を救うことができたのに・・・、という里人の思いから願いごとが叶った御礼参りの際に、お供えされるものだそうです。女人の守護神として里人たちの信仰を集めている八重姫。今もお参りの人が絶えないそうです。
本堂をお参りしたあと、磨崖仏 (まがいぶつ)があるとのことで、眞珠院の裏山へ向かいました。磨崖仏とは、自然の岩壁や露岩に彫刻された仏像のこと。眞珠院の摩崖仏には、 1363年(室町時代)年銘の磨崖仏があり、密教信仰の対象として刻まれたそうで、風化により一部分かりにくいところもありますが、少し離れた場所からでも仏像の面影を見て取ることができました。
帰りは、八重姫が身を投げたと言われる古川(かつての真珠ヶ淵)の横を通って伊豆長岡駅へ向かいます。
眞珠院
■住所 伊豆の国市中條145-2
■TEL 055-949-3544
■拝観料 無料
まとめ
今回は、伊豆長岡駅からサイクリングで北条氏ゆかりのスポット4か所を巡りました。サイクリングで2時間半のプチトリップですが、運慶作の国宝の仏像群がある願成就院から、頼朝の恋人だった悲恋のヒロイン八重姫ゆかりの眞珠院まで、見応え十分のコースです。
かつて栄華を誇った北条氏ゆかりの守山地区。源頼朝や北条時政、北条政子、北条義時らが確かにこの地にいたと想像しながら町並みを走るサイクリングもとても楽しいひと時でした。
電動自転車のパワーのおかげで快適に移動できるので、体力に自信がない方にもおすすめです。ぜひレンタサイクルを利用して守山地区を巡ってみませんか。
伊豆の国レンタサイクル情報
利用料金 500円/1日・1台
電動アシスト付 1,000円 /1日・1台
利用時間 10:00~16:00
申込 電話、FAXまたは下記リンクよりWeb予約をお願いします。
TEL 055-948-0304
FAX 055948-5151
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