日本一高い富士山は、その端正な姿と神性により古来人々を魅了し、日本の象徴として世界的にも知られる唯一無二の山。2013年には「富士山ー信仰の対象と芸術の源泉ー」として世界文化遺産に登録されました。静岡市清水区にある三保松原(みほのまつばら)はその構成資産のひとつ。
「富士山から45kmも離れた三保松原が、なぜ?」 実際にこの地を訪れてみると、その理由がわかります。
青々とした松並木が延びる海岸越しに仰ぐ富士山の景観は、古くから極楽浄土に例えられ、大正11(1922)年に日本で初めて名勝に指定されました。
松原の中でも特別な「羽衣の松」に伝わる羽衣伝説。松原から「神の道」を経て、神様を迎える古(いにしえ)から佇む御穂神社。神様と人々をつなぐ地である三保松原の魅力に迫ります。
三保松原は国民に選ばれた日本を代表する名勝!
古くから有名な日本国内の絶景スポットといえば、江戸時代前期に儒学者の林春斎が定めた、松島、天橋立、宮島の「日本三景」。
時を経て、大正5(1916)年。雑誌『婦人世界』によって、「日本新三景」を選ぶ全国投票が行われました。『婦人世界』の出版元、実業之日本社は、今もさまざまなガイドブックや雑誌を手がける出版社です。そこで、北海道の大沼、大分県の耶馬溪とともに「日本新三景」に選ばれたのが、三保松原。まだ庶民の旅行が一般的ではなかった時代に、女性を中心に選ばれた絶景スポットだったのです。そこには、いつか訪れてみたいという憧れもあったかもしれません。その後、大正11(1922)年に日本で最初の名勝に指定されました。
ロマンティックな羽衣伝説が残る神聖な場所
三保松原には、羽衣伝説が語り継がれてきました。日本だけでなく、世界各地に似たような伝説が残されていますが、多くは、天から降りてきた天女が、人間に羽衣を隠されて戻れなくなるというストーリーです。羽衣を隠すのはその美しい姿に魅せられた男性や、老夫婦。天女は男性と結婚して子どもをもうけたり、老夫婦に米づくりや酒づくりを教えを暮らしを豊かにします。人間に幸を与えた天女は、最終的には羽衣を見つけ天に帰ってしまいます。
三保松原の羽衣伝説はちょっと違います。天女と出会った漁師の男は、羽衣を返してほしいと懇願する天女の言葉を聞き入れ、かわりに舞を舞ってもらいます。この世のものとは思えない優雅な舞を舞ったあと、天女は富士山の方へ消えていったというものです。この伝説は、室町時代につくられた謡曲「羽衣」の題材となり、江戸時代には浮世絵や歌舞伎の題材にもなりました。次第に庶民の間に広まっていった羽衣伝説に描かれた、天上と地上を結ぶ神秘的な松原、富士山を望む極楽浄土のような景観に人びとは憧れを抱き、三保松原は一度は訪れてみたい観光地になったのでしょう。
ちなみに、三保松原は日本三大松原にも選定されています。
富士山信仰と結びついた極楽浄土のような景観
室町時代の富士山信仰の様子を描いた「絹本著色富士曼荼羅図」(けんぽんちゃくしょくふじまんだらず)(富士山本宮浅間大社所蔵)には、富士登拝をする人びとの様子とともに、三保松原や駿河湾も描かれています。信仰の対象としての富士山に、三保松原が描かれたのは、そこから見る姿が理想郷のようだったからと考えられています。絵図に描かれた極楽浄土は手前に海や池があり、その先に島が浮かび、奥には仙人が住むという蓬莱山がそびえています。その景色をリアルに見られるのが三保の地。富士山から離れている三保松原が世界文化遺産の構成資産であるのも、なるほど、納得ですね。
徳川家康の平和外交にも貢献したユートピアのような景観
晩年、駿府(静岡市)で大御所として過ごした徳川家康。そのもっとも大きな功績は平和外交でした。豊臣秀吉の朝鮮出兵で断交していた李氏朝鮮との国交を復活させ、江戸にいる将軍に謁見した朝鮮通信使を駿府で手厚くもてなした記録が残っています。
一行は清見寺に留め置かれた後、家康が用意した眼前の海に浮かべられた船の上から、三保松原の景色を堪能したそうです。
この時の歓待や目の前に広がる景色の素晴らしさを詠んだ詩には、「蓬莱島」「十洲」「三山」という、ユートピアを意味する言葉が入っています。漢詩は扁額に記され、清見寺の大方丈の中に掲げられています。
「みほしるべ」で三保松原について学ぶ
素晴らしい景観を生み出した三保半島の成り立ちや、名勝及び世界文化遺産「富士山ー信仰の対象と芸術の源泉」の構成資産としての三保松原の価値や魅力、松原保全の大切さについては、静岡市三保松原文化創造センター「みほしるべ」の展示で詳しく解説しています。ミュージアムショップでは、三保松原ならではのおみやげを購入できますのでぜひお立ち寄りください。
【静岡市三保松原文化創造センター「みほしるべ」】
住所:〒424-0901 静岡県静岡市清水区三保1338-45
電話:054-340-2100
営業時間:9:00〜16:30
定休:無休
料金:無料
駐車場:173台
URL:https://miho-no-matsubara.jp/center
御穂神社まで神の道を歩く
三保松原の入口から続く松並木の木道は、羽衣の松を目印に降臨された神様が御穂神社まで通られる神の道です。松の樹齢は200〜300年と言われています。神聖な場所にふさわしく凜とした空気に包まれる木道は、散策にもぴったり。500mほどありますが、途中ベンチもあるので、ひと休みしながらのんびりと歩けます。
神の道が行き着く先は御穂神社。主祭神は大己貴命(おおなむちのみこと)と三穂津姫命(みほつひめのみこと)で、平安時代に編纂された『延喜式』にもその名が残る由緒ある神社です。日本武尊(やまとたけるのみこと)が東征の際に立ち寄ったと伝わり、大和朝廷をはじめ、駿河の地を治めた今川氏や徳川氏からも篤く崇敬されました。
ご利益は縁結び、家庭円満、除災招福。11月1日と2月15日には、天女が舞ったといわれる羽衣の舞が奉納されます。
【御穂神社】 住所:〒424-0901 静岡県静岡市清水区三保1073 電話:054-334-0828 営業時間:8:00〜17:00 定休:無休 料金:境内無料 駐車場:あり(無料)
三保を味わうベーカリーカフェが誕生
三保に訪れる観光バスや、土・日曜、祝日に運行する三保松原への直行バスの終点「世界遺産三保松原」バス停の目の前にある「ベーカリー&カフェ 羽衣亭」。三保でもっとも歴史ある宿泊施設の羽衣ホテルが、庭園の一画にオープンエアのカフェスペースを新設しました。オープンしたのは2023年2月23日。三保松原の地にふさわしい「富士山の日」でした。
営業日の朝から手づくりされるスイーツは、昭和30〜40年代のお母さんやおばあちゃんが、家で作ってくれたような素朴なパンやお菓子のような懐かしさを感じる“おやつ”が中心です。とはいえ、りんごの食感が残るフィリングを詰め込んだアップルパイや、クロワッサンは、バターが香り表面はパリッと、中はふんわりと焼き上げた本格派です。
久能のいちごを使ったスムージーや、三保で収穫したシークワーサーのドリンクなど、オリジナルドリンクも取り揃えています。
価格は500円から。そのままテイクアウトできますが、緋毛せんがかけられた縁台に腰掛けてのんびりとカフェタイムを過ごすのもおすすめです。
数量限定で焼き上げる食パン「松の翠」は、ふんわり、もちもち。松葉パウダー入りでほんのり緑色で、爽やかな後味が特徴です。カリッと焼けた耳はとても香ばしく、食感の違いも楽しめます。
【ベーカリー&カフェ 羽衣亭】 住所:〒424-0901 静岡県静岡市清水区三保1264-1 営業時間:日曜日は営業。※不定休につき営業時間などの詳細はInstagramをご覧ください 定休:不定休 ※ツアーの場合、事前予約も可能 駐車場:なし(近隣の駐車場利用) URL:https://www.instagram.com/hagoromotei0223/
港町清水の名物、マグロを堪能するランチスポットへ
神の道沿いにある「まぐろDining はぐるま」は、民家を改装したアットホームな雰囲気の食事処。店内は畳敷きのテーブル席。ジャズのBGMやドライフラワーを生かしたインテリアで、カジュアルに食事が楽しめる空間です。メニューに並ぶ定食や丼の主役は、選りすぐりの鮪。地元清水を中心に焼津、三崎に水揚げされる質のいい鮪を、さらに確かな目利きで直接仕入れています。
おすすめは「はぐるま定食」。6種類盛り合わせの刺身は、本鮪、びんとろ、バチ赤身の食べ比べができ、さらにフライや煮付けで鮪三昧が楽しめます。旬の野菜や自家菜園で採れた野菜でつくるサラダや総菜の小鉢も優しい味わいです。
平日限定で提供している刺身とフライの2種類の定食はとってもリーズナブル。フライ定食にも小鉢で刺身が付くので、あれこれ少しずつ食べたい人におすすめです。丼定食はメインの丼に煮付け、フライ、小鉢付き。洋風のオリジナルメニュー「ポキ丼」も人気です。
【まぐろDining はぐるま】 住所:〒424-0901 静岡県静岡市清水区三保1330-2 電話:054-388-9505 営業時間:11:00〜15:00(LO14:45) 定休:水曜 駐車場:6台 URL:https://www.instagram.com/haguruma_miho/
まとめ
古(いにしえ)の時代から人々が憧れた景勝地・三保松原へ
誰もが一度は目にしたいと思う、雄大な富士山の姿。海と松原、富士山を一度に望む三保松原ならではの風景は、長い歴史の中で信仰や文化、芸術によって賛美されてきました。三保らしさ、港町・清水らしさを取り入れた話題のグルメスポットに立ち寄りながら、天女も憧れた日本の美を象徴する三保松原をのんびりと散策してみませんか。