徳川家康をお祀りする久能山東照宮は、本殿、石の間、拝殿が国宝に指定されている静岡県の代表的な観光スポット! 色鮮やかな総漆塗り社殿の壮麗な建築に、天下統一を成し遂げた家康の生涯や安土桃山時代の香りが残る江戸時代初期の豪華な文化を垣間見ることができます。静岡市の観光地と言えば外せないこの由緒ある神社についてご紹介します。
日本平山頂からロープウェイで久能山へ
久能山東照宮は久能山の山頂付近に建てられています。アクセスは北側からロープウェイに乗って行くか、南側から1159段の石段を登って行くかの二者択一。難攻不落という言葉がぴったりのこの場所には、もともと「久能城」というお城があったそうです。
久能山ロープウェイは、静岡駅から車で40分ほどの日本平山頂駅から出発します。(お車でお越しの場合、日本平山頂駅の駐車場代は無料です。)
この日本平ロープウェイは青色の「あおい号」とオレンジ色の「たちばな号」の2台のゴンドラで運行をしています。ゴンドラでの空中散歩は1,065メートル。「屏風谷」という名前のついた絶壁の崖や駿河湾、伊豆半島も眺められ、壮大な景色を眺めながらガイドさんのお話を聞いているとあっという間に5分が経過し、久能山駅に到着します。
桜門 ~神格化された将軍 徳川家康~

受付で拝観料(大人:500円)を支払い進んで行くとすぐに楼門が目に入ってきます。
この楼門のみどころを3つご紹介します。
1つ目は門の正面上部に掲げられている「東照大権現」という文字が書かれている額。
これは第108代御水尾(ごみずのお)天皇によるもので、「東照大権現」とは徳川家康公のこと。家康は元和2年(1616年)4月17日に生涯を閉じられたあと、神格化され全国の東照宮の神様としてここ久能山に祀られました。

2つ目は楼門をくぐると左側にある「家康公の手形」。天下統一を成し遂げた家康の掌は意外と小さいように感じました。皆さまもぜひご自身の掌と比べてみてください。
3つ目のみどころは、楼門の彫刻。この彫刻の中には家康の平和への願いが込められた動物が彫られています。その動物とは「獏」。夢を食べるとよく言われる獏ですが、宮司さんのお話によれば、鉄や銅を食べて生きる動物とされているそうです。戦乱が続くと金属は武器に使われるため、獏は食べるものがなくなって生きていけなくなる、その「獏が生きられる平和な世の中を維持しなさい。」という家康からの私たちへのメッセージが獏の彫刻に込められているそうです。
本殿 ~彫刻に込められた家康公のメッセージ~

階段を上って左手にある門をくぐると、極彩色の漆塗りの豪華な本殿が目に飛び込んできます。久能山東照宮の社殿は2009年に50年に一度の塗り替えを終えたそうで色彩はとても鮮やかです。
お参りを終えたらぜひ社殿の彫刻にもご注目ください!実は、拝殿の彫刻にも家康からのメッセージが込められているんですよ。拝殿に向かって上部の欄間にある3つの彫刻がそれ。左側からご紹介しますね。



社殿に向かって一番左は「ひょうたんから駒」。これは「あるはずのないことの例え」を表しており、人生何が起こるか分からない、あるはずのないことが起きたときに備えて、日頃から十分な準備しておきなさい。そうしてチャンスを掴みなさい!という家康の教えが込められているそうです。
真ん中は、「司馬温公の甕割り(しばおんこうのかめわり)」の彫刻。大切な甕を割って溺れた友達を助けたという中国の故事により生命の尊さを伝えているそうです。
そして、一番右の「孟子孔子老子」の彫刻は、中国の賢人に倣い終生勉強をしなさい、というメッセージを伝えているそうです。

神廟 ~家康公のご遺体はきっとここ久能山に~

お参りを終え、拝殿の西側に進んで行くと石の階段があります。この階段を登っていくと徳川家康のお墓である「神廟」に到着します。
家康公は静岡県に大変ゆかりのある将軍で、実は75年の生涯のうちおよそ30年間を静岡県で過ごしています。家康が亡くなられた後、その亡骸は家康の遺言により、久能山に埋葬され、その後、秀忠によって久能山東照宮が建築されました。
この「神廟」に纏わる言い伝えをご紹介します。
この神廟は西方面を正面に立てられていますが、伝えられているところでは、家康もこの中にお座りになり、西の方向を見つめているとのこと。なぜ西なのかというと、当時はまだ豊臣氏の残党が西におり復活の機会をうかがっていたため、江戸幕府の行く末を案じて、豊臣方を監視するために、そのように埋葬するよう遺言を残したとの言い伝えがあります。
ここで疑問に思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、家康の眠る地として知られているのは、一般的には日光東照宮ですね。しかし、さきほどの言い伝えがあるように、久能山東照宮では家康の亡骸が眠っているのはこの神廟であるとされています。
家康は、「遺体は駿河国の久能山に葬り、江戸の増上寺で葬儀を行い、三河国の大樹寺に位牌を納め、一周忌が過ぎて後、下野の日光山に小堂を建てて勧請せよ、関八州の鎮守になろう」(『本光国師日記』より)との遺言を残されていますが、一周忌が過ぎた後に日光に分霊した(霊だけを分けた)という説と、亡骸を移したという説があるそうです。
宮司さんに「まだ中を調査したことはないのですか?」と尋ねてみました。宮司さんからは「畏れ多くそのようなことはできない。」とのお答え。そして、毎年の家康の命日には、徳川宗家(家康公の子孫にあたる方)が、ここ久能山東照宮をお参りされるということを教えてくださいました。あたりの神聖な空気に触れながら、やはり徳川家康はここにお眠りになっているのではないかと感じつつ、このひっそりとした空間を後にしました。
博物館 ~徳川15代将軍の甲冑や刀が見られる~

参拝を終えたあとは、徳川15代将軍ゆかりの甲冑や刀剣などの武具や武器から日用品まで、貴重な歴史的資料が収蔵されている博物館へもぜひお立ち寄りください!
必見は国の重要文化財にも指定されている家康の「洋時計」。1611年にスペインのフェリペ国王から、海難救助のお礼として家康に送られたものだそうです。
歴代将軍の甲冑の展示も壮観です。その佇まいは圧巻で戦場の雄叫びが遠くから聞こえてくるよう。普段は歴代将軍の中から一部の将軍の甲冑が展示されておりますが、すべてが展示される特別な機会もあります。
将軍家の刀剣にもぜひご注目を。オンラインゲーム「刀剣乱舞」によって起こった刀剣ブームから「刀剣女子」という言葉も生まれましたが、この博物館の刀剣の展示は刀剣女子にもきっとご満足いただけると思います。
石段 ~いちいちごくろうさん 江戸時代の姿を残す石の階段~

博物館を見学したあとは、久能山の南側へ。眼前には駿河湾が広がります。伊豆半島、御前崎までこのあたりの海岸線がくっきりと見えますよ。
お天気がいい日には、太陽の光を浴びて煌めく美しい駿河湾の海を眺めることができます。
また、眼下にはビニールハウスがたくさん連なっていますが、これはこのあたりの特産品のいちご栽培のためのビニールハウスなんですよ。久能山はいちご狩りのメッカ。毎年1月から5月初めまでいちご狩りを楽しむことができます。いちごは静岡県の特産品の1つで、あきひめ、紅ほっぺ、きらぴ香は静岡県生まれなんですよ。
久能山の南側には冒頭で触れた石段があり、ロープウェイを使わなくても、階段を上ってお詣りすることができます。この石段は1159段(「いちいちごくろうさん」と覚えます。)私は20分弱で登ることができました。かつてはこの石段を登ってしかお参りできなかった久能山東照宮。人々を容易には寄せ付けない神聖な領域だったことが偲ばれますね。


最後に(まとめ)

天下泰平の江戸時代260年の基盤を作り上げた徳川家康が祀られている久能山東照宮。本殿や拝殿、神廟、博物館の他にも今回はご紹介しませんでしたが、家康公の愛馬の木像が収められている神厩や、重要文化財に指定されている鼓楼、神楽殿や唐問など見どころがたくさんあります。久能山東照宮にお詣りし、日本の歴史に大きな足跡を残した徳川家康の生涯に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
*駐車場 ロープウェイ 日本平側に無料駐車場あり
石段側 有料駐車場へ駐車となります。